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ネットにあふれる金融広告について考えてみた(2)

今回は東京海上あんしん生命の「メディカルKit R」をとりあげる。「使わなかった保険料が戻ってくる医療保険」といううたい文句での広告が最近よく流れてくるが、これはどうなのだろうか?

【掛け捨てはもったいない?】


結論からいうと「掛け捨てはもったいない」というのは完全に誤解である。というのは、保険商品はざっくりいうと「掛け捨て」か「掛け捨て+貯蓄(or投資)」のどちらかで、「保険料が戻ってくる」といっているタイプの商品は「掛け捨て+貯蓄」になる。つまり、どっちにしても掛け捨て商品を買うことには変わりないので、掛け捨てがもったいないから貯蓄型の商品に加入するというのは掛け捨て商品に加えて貯蓄商品まで買わされているということになり、もっともったいないことになっている。
これを保険の知識のない適当な評論家がいっているのであれば仕方ない面もあるのだが、このような構造を当然熟知しているはずの保険会社自身が「掛け捨てがもったいない」といって広告を出しているのは問題があるのではないか。「掛け捨てはもったいないですよね!」といいながら掛け捨てと貯蓄を抱き合わせで売っているのである。虚偽スレスレの広告といえるだろう。

【「使わなかった保険料が戻ってくる」はフェアな表記か?】


この商品の構造をみてみると、通常の終身医療保険に「健康還付特則」がついている形になっている。要は、掛け捨ての終身医療保険に「健康還付特則」という貯蓄商品がくっついているような形だ。特則部分にも保険料が発生しており、この保険料を支払うことで、「使わなかった保険料が戻ってくる」というわけだ。
これは、逆にいえば医療保険を使った分だけ積み立てた特則の保険料が没収される」とみることもできる。「使わなかった保険料が戻ってくる医療保険」と「掛け捨ての医療保険と保険を使った分だけ没収される積立貯金のセット販売」ではだいぶ印象が違うだろうが、これらは同じものを指している。さて、どちらがフェアな表記だろうか。
特則部分の保険料はオンラインでの保険料試算では表示されない(これもアンフェアだと思う)が、30歳男性のメディカルKit Rの保険料(月額3,004円)と健康還付特則のないメディカルKit NEOの保険料(月額1,684円)の差額から推測(保障内容が若干違うので厳密には比較できない)すると、ざっくり月額1,500円くらいのようだ。毎月1,500円の医療保険と、毎月1,500円を高利回りで積み立てる「医療保険を使った分だけ積立金が減額される仕組預金(デリバティブ預金)」を同時に契約しているようなものだ。これを率直に説明されたら、あなたは加入するだろうか?
ちょっと論点はずれるが、銀行が仕組預金を売る際は金融商品取引法の規制に服すことになる一方、保険商品の特則として実質的に仕組預金を販売しているこの商品には金融商品取引法の規制がかかっていないが、本当にそれでいいんだろうか?

【なんのために医療保険に入るのか】


医療保険に入ろうと思ったときにどういうリスクをカバーしたいと思っているかをよく考える必要がある。「入院や手術をしなかった場合のリスク」に備えて保険に入る人はいないだろう。やはり、大半の人は長期入院による損失をカバーしたいと思っているのではないだろうか?最近は日帰り入院でも給付金がもらえる商品も多いが、別に日帰り入院で5千円とか1万円とかもらえたとしても、保険で備えるべきものだったのかといわれるとそうではないだろう。それはあくまでもオマケにすぎず、不慮の事故や重大な病気で1ヶ月とか2ヶ月とか、さらにはそれ以上とかの長期入院の際の、貯金で対応するにはツラい費用に備えて医療保険に入るのではないだろうか。
すると、医療保険と長期入院すればするほど貯金が没収されるような貯蓄商品を同時に加入するのははたして合理的なのだろうか?長期入院のリスクを軽減するために医療保険に入っておきながら、同時に長期入院のリスクを増幅するような貯蓄商品に加入するわけである。アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので、とても合理的とは思えない。
養老保険終身保険のような掛け捨ての死亡保険+単純な貯蓄のような、保険を邪魔しないような貯蓄商品であるなら好み(リスク選好)の問題といえるのかもしれないが(私自身は保険商品で貯蓄や投資をすべきではないという立場)、この商品は、特則を付加することによって「長期入院リスクに備える」という保険の効果を阻害してしまうのである。これこそ真の意味で「もったいない」のではないだろうか。

【結論】
メディカルKit Rは「使わなかった保険料が戻ってくる」機能が医療保険の機能を阻害しているという、とても「もったいない」商品。好き嫌いの次元を超えて「非合理的」な商品なので、絶対に入るべきではない。医療保障が必要なら余計な機能のついていない普通のものに入るべき。
広告も非常にミスリーディングであり、消費者の無知や誤解につけこもうとする姿勢が伺われ、問題が多いといわざるを得ない。消費者庁案件なのではないか。

東京海上あんしん生命の「お客様本位の業務運営方針」に記載のとおり、「お客様に商品内容等に関する詳細な情報をご提供・ご説明し、正しくご理解」いただいてもらいたいものである。


お客様本位の業務運営方針 | 東京海上日動あんしん生命保険