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選挙運動について考えてみた

衆院3補選は立憲民主党の3連勝という結果に終わり、どうやら政局が始まりそうな空気だ。

この選挙期間中に話題になったことといえば、東京15区で他の候補者の街頭演説を妨害していた候補の存在だろう。そのせいで街頭演説がやりにくくなったということで、「主権者への権利侵害だ」というようなコメントも見かけられた。

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しかし、「主権者」にとって街頭演説にどれほどの価値があるかといわれれば極めて微妙だろう。選挙をやってる方の視点ではそれがすべてなのだろうが、大多数の有権者にとって街頭演説は「なんかやってるな」どころか下手をするとノイズでしかない。
街頭演説に耳を傾けている人の多くは動員だろうし、その街頭演説によって投票先の選択をするようなことにはならないだろう。
複数の候補の街頭演説を聴きにいって、それで比較をして投票先を決めるような"立派な"有権者は割合にしたら1%もいないのではないだろうか。支持している議員または政党の街頭演説を聴きに行くだけでも十分熱心な有権者といっていいだろう。

>錦織の街頭演説は人数は集まっているものの、多くが動員によって集められたためか、拍手などの反応は薄い。
島根1区 立憲民主党の亀井亜紀子が屈指の自民党王国で勝利 衆議院補欠選挙「保守王国」島根の選挙戦は? | NHK | WEB特集 | 選挙

 

もちろんたいして役に立たないからといって妨害していいというつもりはないし、ある程度は「主権者への権利侵害」であることも間違いではないと思うが、実はもっと大きな主権侵害がなされていることにも注意をする必要がある。それは、「公職選挙法による立会演説会の禁止」である。これを批判せずに街頭演説への妨害を批判して「主権侵害だ」といったところで説得力がないのである。

かつて立会演説会は選挙管理委員会が主催の上で実施されていたが、1983年(昭和58年)に禁止された。理由としては、有権者のニーズがないからだとか、自分の支持している議員の話しか聞かないので形骸化しているとか、対立候補へのヤジによる妨害などがあったからだとかいわれているが、本質的な理由としては与党自民党にとって不利なものだったからだといわれている。自民党の候補者としてみれば、立会演説会でわざわざ社会党の候補者と比較されるような場はうっとうしかったのだろう。立会演説会が廃止されたときも社会党は強く反対していた。
そもそも、これらの理由が事実なのであれば単に選挙管理委員会が「今後立会演説会はやりません」といえばいいだけで、民間団体が立会演説会を選挙期間中に開催することをわざわざ法令で禁止する必要は全くないのだ。自民党として、民間団体によるものも含めて禁止したい強力なモチベーションがあったのは間違いないだろう。

参照:選挙における公開討論会の今日的意義:市民による公開討論会運動の経験を通して(小池 秀明)
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/22319/1/7_P191-226.pdf

禁止の理由が「有権者のニーズがなく」、「形骸化している」事に加え「妨害が酷い」からなのだとすれば、街頭演説も禁止しなければならないということにもなる。

しかし、立会演説会は本当にニーズがなく形骸化しているのだろうか?
最近は国政選挙や首長選挙など大きめの選挙では、公示前に民間団体による公開討論会が実施されることが通常になっている。これは、公職選挙法で立会演説会が禁止されているせいで公示前にしか実施できないのだが、どう考えてもおかしな話だ。わざわざ民間団体が主催するのだから、一定のニーズはあるに決まっている。公示前は立候補者はまだ未確定な状態で、公示日に初めて立候補を表明する候補者だっているだろう。一定のニーズがある公開討論会を公示日以降は実施できないことこそが「主権者の権利を侵害している」のであって、その巨大な権利侵害に比べれば街頭演説への妨害などさしたる問題ではない。
また、今回の東京15区補選では、当選した立憲民主党の候補者が公開討論会を欠席し、「逃げた」などと批判されていた。もちろん批判すること自体は自由であるが、その公開討論会は、ひろゆきや成田悠輔が参画するリハックというYoutubeチャンネルで行われ、主催は自民党の支持母体かつ極めて右寄りな思想を持つことで知られるJC(青年会議所)であり、中立性をあまり期待できない状況下でのものであった。
立憲の候補者が参加しなかった理由はわからないが、仮に選挙管理委員会やそれに準ずる中立的な組織が開催した公開討論会を欠席したのであれば「不誠実」との印象も持つだろうが、個人的にはこれは参加を拒否してもやむを得ないなという印象を持った。
結局は公職選挙法で公示後の立会演説会を禁止していることがこういったイマイチな討論会が実施されてしまう原因であるので、まずは公職選挙法で立会演説会の禁止を解除すべきである。

このたびの街頭演説妨害問題が有権者にとってマイナスだというのであれば、あわせて立会演説会・公開討論会の禁止についても批判してほしい。それをいわずに「ニーズもなく」「形骸化している」街頭演説への妨害のみを批判したところで、単に支援者がための機会を奪われていることに怒っているようにしか思えない。それならそれでいいが、有権者をダシに使わず、「票固めがやりにくくなるからやめてくれ」と正直にいってもらいたい。